近年、日本企業からニュージーランド進出に関するご相談が増えています。以前は大企業による進出が中心でしたが、最近ではオーナー企業や中小企業、スタートアップなどからの問い合わせも多くなっています。
進出方法として、日本本社の海外拠点として小規模な現地法人を立ち上げて、日本から代表者1名を派遣し市場調査や営業活動から始めるケースや、現地の飲食店や小売事業を買収し現地スタッフに運営を任せるケースなどもみられます。
本記事では、日本企業がNZへ進出する際によく検討される「会社設立」「ビジネス購入・M&A」「ビザ」について、実務上のポイントを交えながら解説します。
ニュージーランド進出の方法
日本企業がNZへ進出する方法はいくつかありますが、実務上は大きく分けて、「新たに会社を設立する方法」と、「既存のNZビジネスを取得する方法」に分かれます。
新規設立の場合は、NZ国内に新たな会社を作り、そこを拠点として営業活動を行います。一方で、既存のビジネスを購入する場合には、すでに運営されている店舗や事業を引き継ぐ形になります。どちらが適しているかは、業種や予算、進出スピード、ビザ戦略などによって大きく異なります。
現地法人と支店の違い
NZへ新規進出する場合、まず検討されるのが「現地法人(Subsidiary)」にするか、「支店(Branch)」にするかという点です。
現地法人の場合、NZに独立した法人を設立します。一般的には “Limited Liability Company” という形態が利用され、日本法人とは別の法人として扱われます。NZ国内では最も一般的な形態であり、銀行口座開設や取引先との契約においても比較的スムーズに進むことが多い印象があります。また、将来的に現地スタッフを雇用したり、事業を拡大したりすることを考えると、現地法人の方が運営しやすいケースも多く見られます。
一方で、支店は日本法人の延長としてNZで活動する形になります。NZ法人を別途設立するわけではなく、日本法人が “Overseas Company” としてNZ国内で登録されます。支店形態は、日本本社主導で管理しやすいというメリットがありますが、契約上や法的責任の面では、日本本社側に影響が及ぶ可能性があります。また、銀行や取引先によっては、支店より現地法人を好むケースもあります。
現地法人と支店のどちらが適切かは、単純な会社設立の問題ではなく、日本本社側の税務・会計・グループ戦略とも密接に関係します。実際には、日本側税理士やNZ会計士を含めて検討されるケースが一般的です。
会社設立の流れ
NZで会社を設立する場合、NZ会社登記局(New Zealand Companies Office)のウェブサイトからオンラインにて申請します。
最初に会社名を決めることになりますが、すでに類似した名称の会社がないかどうかを確認し、社名を予約するための申請を行います。その後、正式な会社設立の手続きを行い、取締役(Director)や株主(Shareholder)などの情報を登録します。なお、ここで重要なのがDirectorの居住要件です。NZ会社では、少なくとも1名のDirectorがNZに居住しているか、またはオーストラリアに居住し、かつオーストラリア会社のDirectorである必要があります。
最低資本金についての制限はありません。定款がなくても設立できますが、定款がない場合は、会社法のデフォルトルールに従うことになります。また、現地企業とのジョイントベンチャー(Joint Venture)を行う場合など、株主が複数いるケースでは、株主間契約(Shareholder Agreement)が重要になることもあります。
日本と比較すると設立手続自体は比較的シンプルですが、近年はAML(マネーロンダリング対策)の強化により、銀行口座開設など時間を要することがあり、特に銀行口座開設時には、Director本人が現地銀行へ直接出向くよう求められるケースも多くみられます。
また、会社設立時には税金番号(IRD Number)の取得も行う必要があります。なお、NZではGST(消費税)が15%あり、年間でNZD 60,000以上の売上が見込まれる場合にはGST登録も併せて必要になります。
ビジネス購入という選択肢
NZ進出というと、「会社を作って一から始める」というイメージを持たれる方も多いのですが、実際には既存ビジネスを購入するケースが多く見られます。特に飲食店、カフェ、小売、清掃業などでは、すでに営業中のビジネス権を買収する形が一般的です。ここで重要なのは、「ビジネスを買う」ことと、「会社を買う」ことは必ずしも同じではないという点です。
NZでは、Business Purchaseと呼ばれる形態がよく利用されます。これは、店舗設備や在庫、顧客、営業権などの「事業資産」を取得するものであり、会社そのものを取得するわけではありません。
そのため、売主会社の過去の債務や税務問題などを引き継ぐリスクをある程度限定できるというメリットがあります。一方で、既存のリース契約、フランチャイズ契約や重要な取引契約などについては、別途、大家(Landlord)、フランチャイズオーナー(Franchisor)、取引先から承諾や契約引継ぎが必要になる場合があります。
M&A(Share Purchase)
これに対し、M&A、特にShare Purchaseでは、会社の株式そのものを取得します。この場合、契約関係や顧客、雇用関係などを比較的スムーズに引き継げるというメリットがあります。複数店舗を持つ事業などでは、Share Purchaseが選択されることが多いようです。
ただし、会社そのものを取得する以上、過去の税務問題や労務問題、簿外債務、過去事案の訴訟リスクなども含めて承継してしまう可能性があります。そのため、Share PurchaseではDue Diligence(DD)が非常に重要になります。また、株主が複数いる場合は、株主間契約(Shareholder Agreement)の作成が重要になるケースもあります。
Business PurchaseとShare Purchaseの大きな違いの一つとして、NZ事業をどのような形で保有・運営するかという点があります。Business Purchaseの場合、通常は買主側でNZ法人や支店を設立した上で、その法人を通じて事業資産を取得・運営することになります。一方で、Share Purchaseの場合は、買収対象会社そのものをNZ拠点として利用し、そのまま事業を継続することが可能です。
実務上、日本企業がNZ進出する際には、比較的小規模な案件ではBusiness Purchase、大規模または複雑な案件ではShare Purchaseが利用される傾向があります。
NZ進出とビザ
NZ進出では、「どのような形で事業を始めるか」と同時に、「誰をNZへ派遣するか」も重要なテーマになります。
進出初期によく利用されるのが、Specific Purpose Work Visa(SPWV)です。SPWVは、特定の目的のためにNZで活動する場合に利用されるビザであり、いわゆる駐在員用のビザでもあり、市場調査、現地法人立ち上げ、支店設立、プロジェクト管理などで幅広く利用されています。「まだ本格的な営業は始まっていないが、まず代表者を送りたい」というケースでは、SPWVが検討されます。従業員数が少ない日本企業であっても、事業計画や資金状況、進出の合理性などによっては取得可能性があります。
一方で、事業が本格化し、海外からの人材を継続的に雇用する段階になると、AEWV(Accredited Employer Work Visa)が利用されます。AEWVでは、NZ側雇用主がニュージーランド移民局から認証雇用主(Accredited Employer)としての認可を取得した上で、適切な雇用契約や市場賃金などの条件を満たす必要があります。特に、一時ビザを保有する日本人を含む移民人材の採用を進める場合には、AEWVが中心となるケースが多くみられます。
まとめ
NZ進出は、必ずしも大企業だけのものではありません。近年では、中小企業やオーナー企業による小規模進出も増えています。
もっとも、会社設立、ビジネス購入、M&A、ビザ、税務、雇用法などは相互に関係しており、進出初期の設計によって、その後の運営が大きく変わることもあります。
特に日本企業の場合、日本本社との関係や駐在員派遣など、日本特有の事情も絡むため、早い段階でNZ側の専門家へ相談しながら進めることが重要といえるでしょう。
本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の事情によって適用関係は異なるため、ご判断を行う前に、必ずニュージーランドの有資格弁護士へご相談ください。
ご相談は、shimpeisato@parryfield.com / https://www.parryfield.com/home/contact/ 03 348 8480 にお問い合わせください。
2026年5月時点




