強制退去は、ニュージーランド移民法上、最も重大な行政処分の一つです。一時ビザ保持者、永住権保持者のいずれにも影響を及ぼし得るものであり、本人のみならず、家族や仕事にも大きな影響を与える可能性があります。
近年、強制退去を巡る法制度は重要な変更を受けており、さらに追加の法改正も提案されています。特に、Immigration (Fiscal Sustainability and System Integrity) Amendment Act 2025およびImmigration (Enhanced Risk Management) Amendment Billは、より厳格な執行と裁量的救済への依存縮小という明確な政策転換を示しています。
当事務所の移民チームでは、移民の方々を支援するため、各種情報、ガイド、動画等を提供しています。その一環として、移民に影響を及ぼす可能性のある法改正や制度変更についても随時情報発信を行っています。近年特に注目されているテーマの一つが「強制退去(Deportation)」です。
本稿では、Immigration Act 2009に基づく現行の強制退去制度を概説するとともに、今後の実務に大きな影響を与える主要な変更点について解説します。
2026年5月時点:
Immigration Act 2009 – 現行の強制退去制度
ニュージーランドにおける強制退去制度はImmigration Act 2009に基づいており、保持しているビザの種類によって適用されるルールが大きく異なります。
永住権(Residence class visa)保持者については、主に同法Section 161に基づき、強制退去の可否が判断されます。重要な判断要素は、犯罪の重大性と、永住権取得からの経過期間です。一般的に、永住権取得からの期間が短いほど、より低い基準で強制退去の対象となります。
例えば、永住権取得から2年以内に犯罪を犯した場合、その犯罪について3か月以上の禁固刑が科され得るものであれば、強制退去の対象となる可能性があります。ここで重要なのは、実際に科された刑罰ではなく、その犯罪について法律上定められている最大刑が基準となる点です。そのため、最終的に裁判所が罰金刑のみを科した場合であっても、その犯罪について3か月以上の禁固刑が法律上予定されている場合には、強制退去の対象となる可能性があります。
比較的身近な例としては、Land Transport Act 1998に基づく飲酒運転や、過失運転による傷害などがあります。これらの違反であっても、有罪判決を受けた場合には、強制退去の対象となる可能性があります。
これに対し、ワークビザや学生ビザなどの一時ビザ保持者(Temporary entry class visa)については、Immigration Act 2009 Section 157に基づき、移民大臣が「十分な理由(sufficient reason)」があると判断した場合、強制退去の対象となります。この権限は非常に広範であり、犯罪の重大性による制限はありません。「sufficient reason」には、ビザ条件違反、犯罪行為、ビザ申請時に虚偽または誤解を招く情報の提供などが含まれます。特に重要なのは、一時ビザの場合、犯罪の重さについて最低基準が設けられていないため、比較的軽微な違反であっても強制退去の対象となり得る点です。
ニュージーランド移民局(Immigration New Zealand: INZ)が、その人物が強制退去の対象となる可能性があると判断した場合に発行する通知書を、Deportation Liability Notice(DLN)といいます。DLNが発行された場合、利用可能な手続は、保持しているビザの種類によって異なります。
永住権保持者については、DLN送達日から28日以内に、Immigration and Protection Tribunal(IPT)に対して人道的理由(Humanitarian Ground)によるアピールを行うことができます。また、難民または保護対象者に該当する場合には、追加的なアピール権が認められる場合があります。
一時ビザ保持者については、DLN送達日から14日以内に、強制退去が行われるべきでない「正当な理由(good reason)」を移民局に提出することができます。さらに、DLN送達日から28日以内に、IPTに対してHumanitarian Groundに基づくアピールを行うことも可能です。Humanitarian Groundによるアピールが認められるためには、人道的観点から例外的事情が存在し、強制退去が不当または過度に過酷であり、さらにニュージーランドへの滞在を認めることが公共の利益に反しないことを示す必要があります。
Immigration (Fiscal Sustainability and System Integrity) Amendment Act 2025 (partly effective 27 May 2026)
(2026年5月27日一部施行)
本改正法は、特に永住権保持者に対する強制退去の判断基準について、大きな変更を導入します。
従来、Section 161に基づく強制退去の対象となるためには、「有罪判決を受けた(convicted)」が必要でした。しかし、今回の改正により、「有罪認定:裁判により有罪と認定された(found guilty)」および「有罪答弁:自身が有罪を認めた(pleaded guilty)」も対象に含まれることになります。この変更により、正式な有罪判決が記録される前の段階であっても、強制退去の対象となる可能性が生じます。
例えば、刑事手続の早い段階で罪を認めた場合や、争われた審理の結果として有罪認定を受けた場合には、その後に裁判所がDischarge without Conviction(有罪認定はするが有罪判決は記録しない処分)を認めたとしても、移民法上は強制退去の対象となる可能性があります。つまり、正式なconvictionが記録されていなくても、移民法上は強制退去の基準を満たすのに十分とされることになります。
これは、従来一定程度有効であった「convictionを回避することで移民上の影響を避ける」という戦略の有効性を大きく低下させる改正といえます。
Immigration (Enhanced Risk Management) Amendment Bill
2026年3月18日に公表された本改正法案では、強制退去制度のさらなる厳格化が提案されています。
最も重要な提案の一つは、一部の一時ビザ保持者に対するHumanitarian Groundによるアピール権の制限です。現時点では法案の適用範囲について議論の余地がありますが、Visitor Visa保持者全員に加え、有罪判決、有罪認定、または有罪答弁をしたWork Visa保持者およびStudent Visa保持者については、IPTに対するHumanitarian Groundによるアピールが利用できなくなる可能性があります。これが実施された場合、一時ビザ保持者に対する人道的救済の範囲は大幅に縮小されることになります。
さらに、本法案では、永住権保持者に対する強制退去可能期間の延長も提案されています。現行法では、永住権取得から10年が経過した後は、強制退去は大きく制限されています。しかし、本法案ではこの期間を20年へ延長することが提案されており、長期滞在者であっても、重大犯罪を犯した場合にはより長期間にわたり強制退去の対象となる可能性があります。
なお、本法案は2026年5月時点ではまだ成立しておらず、今後の立法過程において内容が変更される可能性があります。
まとめ
これらの改正は、ニュージーランドの移民政策が、より厳格かつ執行重視の方向へ大きく転換していることを示しています。
2025年改正法は、強制退去の基準を「有罪判決ベース」から「有罪認定・有罪答弁ベース」へと変更することで、強制退去のハードルを引き下げました。同時に、今回提案されている改正法案は、一部の一時ビザ保持者に対する人道的救済の範囲を縮小し、長期滞在者に対する強制退去リスクを拡大するものとなっています。
その結果、移民上の問題は、刑事手続のより早い段階で発生する可能性があります。実務上は、起訴段階や有罪答弁の判断が、重大な移民上の影響を直ちに引き起こし得ることを意味します。
これらの法改正は、ニュージーランド政府が移民制度の健全性維持と公共の安全・国家安全保障を重視していることを示しています。一方で、人道的アピールの制限を含め、移民法の執行と個人の権利保護とのバランスについて、新たな議論を生じさせるものでもあります。特に刑事手続が関係する場合には、できる限り早い段階で専門家から法的助言を受けることが、これまで以上に重要になっています。
本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の事情によって適用関係は異なるため、投資または移民に関する判断を行う前に、必ずニュージーランドの有資格弁護士へご相談ください。
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